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千葉地方裁判所 平成2年(わ)14号 決定 1990年6月28日

少年 J・H(昭46.5.29生)

主文

本件を千葉家庭裁判所に移送する。

理由

(送致する事実)

被告人は

第一  A、B及びCと共謀の上、平成元年11月13日午後10時30分ごろから同日午後11時30分ごろまでの間、千葉県松戸市○○××番地の×の松戸市○○敷地内に駐車中の普通乗用自動車内において、D子(当時19歳)に対し、同女の手足を押さえ付けるなどの暴行を加えて、その反抗を抑圧したうえ、被告人、右Aの順に強いて同女を姦淫した

第二  同月14日午前2時30分ごろ、東京都江戸川区○○×丁目××番××号付近路上において、Eが遺失した自転車1台(時価3000円相当)を発見したのに、自己の用途に供する目的で、正規の届出をせず、拾得して横領したものである。

右第一の事実は刑法60条、177条に、同第二の事実は同法254条にそれぞれ該当する。

(事実認定の補足説明)

弁護人は、前示第一の強姦の事実につき、被告人らが被害者の反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫行為をしたことはなく、和姦である旨主張し、被告人も公判廷において右主張にそう供述をしている。

右につき、被害者は公判廷で、○○駅前において被告人らのうちの2名に引っ張られるようにして被告人らの車に乗せられ、同車内では行先に不安を感じ強姦されると思ったので降ろしてくれるようにいったが、100キロ位のスピードで走り続けて、結局人気のない現場に連れて行かれた旨の経過を述べているところ、右供述内容は、右供述自体にみられる被害者自身の行動が、その意に反して車に連れ込まれるに至るまでにしては強い抵抗の状況が供述されておらず、また、被告人ら4名と共に乗車したにしては車内の様子に切迫感のみられないものであって、この間の状況について被告人以外の共犯者らが各供述するところと彼比較量するとき、概して自己の被害者的立場を強調し、また、本件のような推移になったことについての自らの軽率な点のあるのを糊塗しようとして、多少作為的な面の窺われるのは否めないところである。しかし、A証人は、同人が先ず被害者を姦淫しようとして拒絶され、そこで今度は被告人がBに手を押えさせるなどしておいて姦淫に及んだと供述しているが、更に、公判廷における検察官の質問に対して曖昧な供述に終始したB証人さえも、同人が被告人から被害者の手を押えるようにいわれて同女の右手を押えたが如く供述しており、更に、被害者が姦淫された後、被告人らに対し「警察に訴えてやる」旨述べたことは、A証人の供述により認められること、そして被害者が車が発進してまもなく下車を要求し、車内に下着を置き忘れるような有様で自宅から全く離れた、しかも見知らぬ場所であるのに下車してしまっていること、被害者が被告人らの車のナンバーを暗記し、下車後まもなく乗車したタクシー内でその運転手に被害を泣きながら訴えていること、及び帰宅後まもなく、車中で被告人らに言った如く警察に告訴していることからすれば、被害者が人気のない現場において、なおシンナーの影響も加わった状態のなかで、被告人ら4名の者に手などを押えられた形で反抗する術もなく、強いて姦淫されたものと認めるに十分である。これに対し被告人の供述は、姦淫した事実は認めつつも、それが暴行に基づくものであることを窺わせるような点になると、A証人、更には被告人にとって不利益なことはなるべく述べようとしない態度を示していたと認められるB証人さえもがその見聞した状況を証言しているところと反する内容のものであって、徒らに自己の罪責を免れるための言辞をあれこれ弄しているといわざるを得ず、和姦である旨の被告人の供述部分は措信できるものではなく、弁護人のいうところは採ることができない。

(処遇の理由)

本件は、被告人が、ほか3名の者らと意を相通じて被害者を強いて姦淫しようとし、その反抗を抑圧したうえ、うち被告人ほか1名が姦淫したという事案であって、4人がかりで1人の女性を弄ぶという所為自体容易に看過できるものではなく、そのうえ、被告人自身は姦淫行為を主導的に推し進め、これを遂げており、他方、被害者の方にも午後9時過ぎ、被告人ら4人が乗車する自動車にさほどの抵抗もなく乗車したという軽率な点があったことを考慮しても、被告人の刑責には軽視し難いものがあるといわざるを得ない。加えて、被告人は自転車を、これが未だ無主物には至っていないことを認識しながら、なんら躊躇することなく自己の用に供しているものでもある。

ところで、被告人は、犯行時18歳、現在19歳の少年であり、昭和63年10月31日に千葉家庭裁判所で傷害保護事件により保護観察処分を受けたほか、喫煙等により20回を超える補導歴を有するなどの多数の非行前歴を有するものであって、自らの行状、生活態度につき十分反省、自戒すべきであったが、それにもかかわらず、夜間盗難車と知りつつ本件共犯者らを誘ってそれらしき女性のいる周辺を乗り廻し、万一、車の所在がわれても盗難車だから発覚することはない、相手に名前を知られないように実在の他人の名を使う、女性と姦淫を遂げた後は車内の指紋を拭き取るなどの所為に出ているのであって、そこには計画性さえみられ、その非行性向は保護観察処分によっても改善されていないのみならず、かえって、当公判廷における供述内容からも窺える如く、自己の罪責をあくまでも免れようとして徒らに言辞を弄するなど、年令と共に深化さえしているとみられ、被告人に対し更に強い矯正のための方途が講じられて然るべきである。このことは本件犯行において犯情が被告人よりもよいとみられる共犯者のAと比することによっても明らかであるといわざるを得ない。

以上の如き本件所為の蔵する非行性、右に至るまでの被告人の生活態度において自省、自戒のみられない状況、このような事態にもかかわらず、総じて被告人自ら自己を厳しく認識しようとする態度が欠落していること、そのほか被告人の年齢、家庭環境、交友関係などに照らすと、その矯正のためには、被告人の刑事責任を追及して、刑事処分に付するよりも、少年期に醸成された歪んだ性格、行状を、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正並びに環境の調整をはかるという見地から、より強く保護し規律して行く方途をとることの方が、喫緊にして当を得ているものと思料されるところである。

よって、少年法第55条を適用して、本件を千葉家庭裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡邉一弘 裁判官 土屋哲夫 新谷晋司)

〔参考〕 受移送審決定(千葉家 平2(少)2803号 平2.7.10決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第1 A、B及びCと共謀のうえ、平成元年11月13日午後10時30分ころから同日午後11時30分ころまでの間、松戸市○○××番地の1の○○斉場敷地内に駐車した普通乗用自動車内において、これより前、JR○○駅付近の船橋市内で誘い込んだD子(当時19歳)に対し、同女の手足を押さえるなどの暴行を加え、その反抗を抑圧したうえ、少年及びAの順で同女を強いて姦淫し、

第2 同月14日午前2時30分ころ、東京都江戸川区○○×丁目××番××号先路上において、Eの遺失した自転車1台(時価約3000円相当)を発見したのに、自己の用途に当てるため、正規の届出をせず、拾得して横領し

たものである。

(法令の適用)

上記第1の事実について 刑法177条前段、60条

上記第2の事実について 刑法254条

(処遇の理由)

少年の資質、生活史、非行歴、処遇経過及び家庭その他の環境については、調査記録にあるとおりであるところ、これら及び本件非行の内容等の審判に現れた諸事情、特に、

1 少年は、中学1年の時に恐喝や自転車盗で補導され、喧嘩が強いことでも知られ、中学3年の時には、喧嘩等で補導され、また、学校側の進学指導に反発して、昭和62年1月からの3学期には全く登校せず、そのころから深夜徘徊、無断外泊等が現れ、同年3月の中学卒業後、高校に進学できずにいて、無為に過ごし、暴走族にも加わり(同年11月に暴走行為で補導される)、車両盗及び公務執行妨害傷害により検挙され、入鑑のうえ、同年5月の在宅試験観察を経て同年12月不処分決定(保護的措置)を受け、この間及びその後小康を得たかのようであったが、同63年春高校受験に失敗し、通信制高校に在籍しつつ、電気工見習いとなり、不良交友のなかで同年10月残忍な傷害を行い、再度入鑑し、同年11月保護観察に付され(不処分決定の1週間後の業務上過失傷害については保護観察後に審判不開始)、その後保護司方には一応往訪しながらも、表面的に接し、実際には不良交友夜遊びの改善は進まず、度々不良行為により警察に補導され(特に平成元年6月の深夜に暴走行為不良交友で補導される)、やがて不良交友の中で、少年が中心となり、盗難車に乗りガールハントに出掛け初対面の女性を自動車に誘い入れ約22キロ離れた火葬場に連行し上記第1の重大な非行に及び、犯行直後被害者を自動車から降ろして立ち去り、更に引続き同じ自動車を走らせ、東京都内で女性2人を誘って車に乗せて走行中、盗難車を検索していた警察官に誰何され、車を放置して逃走し(共犯のAのみ捕まる)、帰途の足代わりにするため上記第2の非行をし、警察官の職務質問で当日発覚したが、上記第1の非行を隠蔽したまま取り調べを終わっていたものであり、その後、取り調べが進み、平成2年2月に上記第1の非行により逮捕されたが、捜査段階、調査審判及び公判で和姦を主張し続け、地裁から有罪認定の上少年法55条により当庁に移送されてきたものであること、

2 少年は、知的には低くないのであるが、幼いころから集中力に欠け決まりや約束事を遵守できない傾向があり、自己中心的で感情の統制が悪く、衝動的な行動に出易く、内省することが若手であり、遊び中心の志向が著しかったものであって、かなり長い被拘束者の生活で若干の変化の萌しが見られるものの、基本的に現在も上記傾向に変化がないと見られること。

3 父は、医師の息子に生まれながら、自由業的な生活をし、自身でも権威に反発的で他罰的であり、家庭ではやや専制的に振る舞い、母は、少年に庇護的に接することが多く、少年に対し適切な監護を欠いた嫌いがあったこと。

4 少年は、保護観察中にもかかわらず、保護司には表面的に対応していたに止まること

などに照らして、少年の要保護性を検討するならば、少年が本件により厳しい刑事訴訟を体験しかなり長い被拘束生活を継続してはいるけれども、自己中心的で他罰的な態度を維持して過ごした同期間をもって事実上矯正教育の実を挙げたとは到底いえないのであって、少年にはこのまま本件手続以前の社会内の処遇を継続するのは相当ではなく、この際、改めて体系的な矯正教育を授け、積極的な生活指導のなかでその内省を真に深めさせ、自律心を高め、問題の多い少年の性格や傾向を矯正し、健全な社会適応能力を養わせることが必要であると認められるので、少年を中等少年院に送致することとする。

よって、少年法24条1項3号、少年審査規則37条1項、少年院法2条3項により主文のとおり決定する。

(裁判官 杉山英巳)

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